2014年12月14日日曜日

スポーツ選手とルーティンワーク

イチロー選手は打席に入いると、バットを持った右腕を前に突き出し、右袖を左手でつまみ、頭を右に回して前方を見つめます。打席ごとに、このお決まりの動作を行います。

ハンマー投げの室伏広治選手は、サークルに入ると投擲方向とは反対側を向いて両足を横に広く開いて立ち、深呼吸するときのように両腕を横に広げて背を反らします。投擲ごとに、この動作を繰り返します。

こういった動作を“ルーティンワーク”といいます。

ルーティンワークには、集中力を高める効果があると考えられています。定式化された動作を行うことで、意識はこれから行うプレイに集中できるというのです。また、ルーティンワークを行う間に心身の状態を感知し、調整できるという効果もあります。

多くのスポーツ選手たちは、独自のルーティンワークを行うことで集中力を高めたり心身の状態の調整をしています。

ルーティンワークでたいせつなことは、いつも同じ動作を同じ速度で行うことです。定式化された行動でないと効果が出ないのです。頑なに保守的に同じ動作を繰り返すことが必要です。

何かの拍子に保守的な動作が乱されるとプレイは雑になり、失敗の可能性が高まります。

日々の生活でも、同じ行動を繰り返すことが頻繁に行われます。そして、定式化された行動とは違った行動をしなければならなくなったとき、これまでにない経験をすることがあります。

このことを題材にした小説があります。藤原新也の「あじさいのころ」という小説です。

「けもの道というものがある。
けもの道は縦横無尽に野山を駆け巡っているわけではなく、決まったいくつかの通り道を移動している。動物の行動は保守的なのだ。
同じように人もまた基本的には保守行動を繰り返す動物であるように思える。
分にいつもの電車に乗り、時に会社に着き、時に会社を退け、また同じ電車に乗って自宅のある最寄りの駅に着く。最寄りの駅から家路に至るルートもけもの道のようにほぼ決まっており、定型化したルートから逸れることはあまりない。」
と、この物語は始まり、定式化された行動を逸脱した二人が、保守的な行動をしなかったことで起こった経験へと話が進んでいきます。詳しく藤原新也著『コスモスの影にはいつも誰かが隠れている』(河出文庫)を読んでください。

私たちは、家庭でも職場でも、保守的な行動を行うことが圧倒的に多いものです。定式化された保守的な行動は、間違えることが少なく、安心して行えます。ところが、定式化された行動が乱されると戸惑いが起き、思い通りの結果を得られないことになります。


スポーツ選手でも私たちでも、ルーティンワークのように定式化された行動は必要ですが、定式化された行動が乱されても臨機応変に対応できる能力も必要だということです。

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