2013年5月5日日曜日

「くだり坂」を無事に下る


「衰朽の人を待つには、恩礼当に愈々隆んなるべし」

これは『菜根譚』(岩波文庫)にある言葉です。「くだり坂の人には、ますます恩恵と礼遇を盛んにして、接していくようにするがよい」(今井宇三郎・訳)という意味です。

人生を「のぼり坂」と「くだり坂」に分ければ、誕生から壮年までは「のぼり坂」であり、壮年から死までは「くだり坂」だといえます。得てして、私たちは「のぼり坂」にある人を賞賛し、「くだり坂」にある人を悲哀の目で見がちです。『菜根譚』では、「くだり坂」にある人を恩恵と礼遇をもって接することを説いているのです。

この言葉を私流に解釈すれば、人生は自然の流れを尊重して生きることがたいせつである、ということだと考えています。

壮年期までは体力は高まります。しかし、壮年期を過ぎれば体力はしだいに低下してきます。これが自然の流れです。60歳の人が20代の体力に戻ろうとするのは、自然の流れに逆らうことです。自然の流れに逆らえば、そこには体調不良などの悪影響がおこります。「若返り」を願う人が多いようですが、「若返り」は自然の流れに逆行することであり、体に無理を強いることになるはずです。

自然の流れにのって、加齢によっておこる変化を素直に受け入れていくことが老いの人生で重要なことだと考えます。ただし、運動不足などの悪い生活習慣を続けて衰えを速めることも自然の流れに反することです。年とともに徐々に体力が低下していくように、運動や食事や睡眠に十分配慮しなければいけません。

多くの人は[維持する]ことや「向上する」ことを願うようですが、自然の流れに逆らわずに「徐々に低下する」ことの方が壮年期からは重要だといえます。「くだり坂」を上手に下ることができたとき、人生は無事完結するのでしょう。

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